これまで、ひとり親であっても離婚や死別であれば寡婦(寡夫)控除が適用されるのに対し、「未婚」(婚姻歴のない方)の場合は、寡婦控除が適用されなかったり、男性と女性で控除の額が違うなど、男女の中でも扱いが異なっていました。
しかし、現在は「すべてのひとり親へ対し、公平な税制支援を行う」という観点から、新たに「ひとり親控除」が新設されています。
そこで今回は、寡婦控除・ひとり親控除の要件や申告方法、今年(令和5年)の年末調整のときに会社に提出する「令和6年分・扶養控除等申告書」の書き方について解説します。
ひとり親控除新設へ
令和2年4月から寡婦控除が見直され、新たに「ひとり親控除」が新設されています。
そこで、まずは「寡婦・寡夫・特別の寡婦」の改正前と改正後を比べて変更になった点を下記にまとめました。
<寡婦の改正前・改正後>
<寡夫の改正前・改正後>
<特別の寡婦の改正前・改正後>
<ひとり親の要件>
この「ひとり親」は婚姻歴や性別に関わらず、生計を同じとする子を有する単身者について、所得が500万円以下であれば適用されることになります。
改正後のポイント
改正後のポイントをまとめると、次のようになります。
- 「寡夫」や「特別の寡婦」は廃止となり、改正後は「寡婦」または「ひとり親」のいずれかとなる
- 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の者がいる場合、控除を受けることができない
- 「ひとり親」は婚姻歴や性別を問わず、適用される
- すべての条件に「事実婚でない場合」という要件が追加されている
このように「ひとり親」が新設されることによって控除が受けられるようになった人がいるのに対し、所得500万円を超える方は控除が受けられないようになっています。
「寡婦」または「ひとり親」の判定方法と控除額
「寡婦」または「ひとり親」の判定と控除額の確認には、下記の表の「本人の所得」→「本人の性別」→「扶養親族」→「配偶者との関係」→「控除の区分(控除額)」の順に確認すると簡単に判定することができますので、参考にしてみてください。
(※クリックすると拡大します。)
改正前は「寡婦」「寡夫」「特別の寡婦」の3通りだったものが、改正後は「寡婦」か「ひとり親」のいずれかとなり、(所得税)控除額も表の通り「寡婦控除27万円」「ひとり親控除35万円」となっています。(※住民税の場合は寡婦控除26万円、ひとり親控除30万円です。)
この表で「寡婦」または「ひとり親」に該当する場合は、税額が軽減されることになっています。
では、実際にどれくらい節税できるのか?所得税を例に解説します。
例えば「事実婚ではないひとり親のAさん」の場合
扶養親族である子7歳(所得額0円)がいる
↓
給与収入見込み額300万円(所得額202万円)
↓
「ひとり親」に該当する
↓
所得額から各種控除を差し引く
202万円(所得額)-48万円(基礎控除)-35万円(ひとり親控除)=119万円(課税所得金額)
↓
所得税の計算
119万円(課税所得金額)×0.05(税率)=59,500円(所得税)
↓
復興特別所得税の計算
59,500円(所得税)×0.021(税率)=1,249円(復興特別所得税)
↓
所得税額(年額)
59,500円(所得税)+1,249円(復興特別所得税)=60,700円(100円未満切り捨て)
「ひとり親控除」を受けなかった場合の所得税額は、
202万円(所得額)-48万円(基礎控除)=154万円(課税所得金額)
↓
154万円(課税所得金額)×0.05(税率)=77,000円(所得税)
↓
77,000円(所得税)×0.021(税率)=1,617円(復興特別所得税)
↓
77,000円(所得税)+1,617円(復興特別所得税)=78,600円(100円未満切り捨て)
↓
78,600円-60,700円=17,900円
Aさんの場合は申告するだけで17,900円の節税となります。
令和2年から給与所得控除額は(給与収入850万円以下の場合)10万円引き下げられ、基礎控除額が(合計所得金額2,400万円以下の場合)10万円引き上げられています。
つまり、今回のAさんの場合は、給与所得控除では10万円増税ですが、基礎控除では10万円の減税となりますので、実質所得税への影響はありません。
でも、どうやって申告するの?
寡婦・ひとり親の申告方法は、給与収入のみ(会社員、パート、アルバイト)の方は、年末調整や入社したときに会社に提出する「給与所得者の扶養控除等申告書」で申告します。(年の途中で退職した方や個人事業主・フリーランスの方は、確定申告のときに申告書に記載します。)
ここでは給与所得者(パートやアルバイトも含む)の申告方法について、解説します。
<年末調整>令和6年分給与所得者の扶養控除等申告書の書き方
「寡婦」または「ひとり親」に該当する方が「給与所得者の扶養控除等申告書」で記入する箇所は、下記の「C 障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生」欄です。
具体的には、下記の「寡婦」または「ひとり親」の□に✔を記入するだけです。
以前は右側の空欄に「死別、離婚、生死不明」「扶養親族や生計を一にしている子の氏名」「所得の見積額」などを記入していましたが、令和2年から記入不要となっています。
<令和5年分>給与所得者の扶養控除等申告書(全体)の書き方については、こちらの記事で確認することができますので、あわせて参考にしてみてください。
最後に
令和2年から年末調整の電子化が実施されますが、勤務先が年末調整の電子化に対応している場合は、年末調整ソフトで作成した電子データのまま提出することができます。
勤務先が年末調整の電子化に対応していない場合は、今まで通り「給与所得者の扶養控除等申告書」に手書きで記入するか、国税庁からリリースされている「年末調整ソフト」を利用して作成した「給与所得者の扶養控除等申告書データ」をプリントアウトして提出するようにしてください。